怖い話 戦後の食糧難

怖い話 戦後の食糧難

戦後すぐ、広島のとある病院での出来事。

大部屋に入院しているある男は、同室にいる何人かのうち、一人の痩せた男のことが気になっていた。

この男は、来る日も来る日も夜半に部屋を抜け出し、どこかに出かけている。

そして小一時間もすると何事も無かったかのように部屋に戻ってくるのだ。

別に痩せぎすの男は夜中にけたたましい音をたてて部屋を出て行くわけではない。

むしろ音も立てずに部屋から消える。

そういう意味では、男の夜間外出に迷惑しているわけではない。

しかし、純粋な好奇心から痩せぎすの男が夜中に何をしているのかが気になる。

あまりに気になるので夜も眠れなくなったある夜、思い切って後をつけてみることにした。
 
痩せぎすの男は、尾行されていることも知らずにどんどん歩いていく。

あっという間に病院を出て、すぐ近くにある墓地へと入っていった。

夜中に墓地とは明らかに普通ではなかったが、そのことがかえって尾行する側の好奇心を掻き立てる。

いよいよ慎重に先行する男の様子を探った。
 
やがて男はとある家の墓の前で立ち止まった。

そして、墓石に向かって何かをしている。

後をつけていた男の所からは、痩せぎすの男がそこで何をしているのか分からなかった。

そこで、相手の手元を伺える位置へ密かに移動した。

果たして、その痩せぎすの男は、墓の下から骨壷を取り出し、その中に入っていた遺骨をかじっていた。

様子を見ていた男は、思わず「あっ」と声をあげてしまった。

その途端、骨をかじっていた男は尾行者に気がついたようだった。

尾行がばれてしまった男は、わき目も振らず一目散に自室に駆け戻った。

それから少し遅れて、あの同室の男が部屋に戻ってきた。

男は別段慌てる風でもなかったが、めいめいのベッドで眠っている同室の患者の顔を覗き込んで回っているようだった。

先に逃げていた男は、薄目をあけてその様子をうかがっていたが、追ってきた男が何をしているのか良く分からなかった。

ただ、何事かをつぶやいていることだけは分かった。

やがて、自分の所にもその男がやってきた。

他の者にしていたように、顔をこちらに近づけてくる。

そして・・・・・・。

「一つ、二つ、三つ・・・・・・・・・。鼓動が早いな、見たのはお前だ!」


解説↓



様子のおかしな人の後をつけてみると、その人は墓に行き、死体を食べていた。

この手の話は、日本の昔ながらの怪談の定番ともいえる。

戦後、とくに貧しかった人は、それはそれは凄まじい空腹との闘いだったと聞いたことがある。

人の死肉をも食べてしまうのは、どうかと思うが、貧しかった時代を想像できるような怪談である。
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